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「銃・病原菌・鉄」を読んだ感想

ジャレド・ダイアモンド氏の名著「銃・病原菌・鉄」がKindle電子書籍化されたそうです。
私は紙の本で読みましたが、大変面白く、興奮を覚えた一冊でしたので、これを機に感想を書いてみたいと思います。


◆冒頭で提示される素朴な疑問

一般に、深い問いから出発した考察は、それだけで読み手をワクワクさせてくれますが、本書が冒頭で提示する問いはスケールがちょっと規格外。


「世界の富や権力は、なぜ現在あるような形で分配されてしまったのか?」
アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか。
なぜその逆は起こらなかったのか。


なんというスケールの大きな問い・・・。
著者のジャレド・ダイアモンド氏は、1972年にニューギニア人の政治家に上記のような疑問、現代世界における各社会間の不均衡について尋ねられ、答えに窮したそうです。
本書は、その素朴な疑問に対し、著者が25年かけて追求した「答え」という位置づけになっています。


◆「なぜ?」を繰り返し究極の要因を追求する

ヨーロッパが世界の各地を植民地化し始めたのは西暦1500年代のことですが、この時点ですでに技術や政治の発展において、大陸間の格差は顕著でした。
なぜヨーロッパが他の大陸の先住民を圧倒できたのか、と問われれば、「そりゃあ武器や船をつくる技術が、その時点でヨーロッパの方が進んでいたからじゃないか?」と私なら単純に考えたでしょう。
しかし本書は、そんな表層の要因にとどまらず、「なぜ?」と繰り返し自問しながら要因を深く深く掘り下げていきます。

なぜ、西暦1500年の時点で大陸間にそれほどの格差が生じていたのか?
銃や鉄剣を発明したのは、なぜインカ人ではなかったのか?
なぜ、インカ人は大海を航海できる船を建造できるようにならなかったのか?
新大陸の先住民はヨーロッパ人が持ち込んだ病原菌で大打撃をうけたのに、なぜその逆は起こらなかったのか?

大陸間の差異を生んだ直接的な要因だけではなく、それが発生するに至ったメカニズムを考察し、最も根源的な要因を探っていく。
その追求していく過程が非常にエキサイティングで、物語を読んでいるかのように人類史の世界に引き込まれます。


◆思考停止せず突き進む一万三千年の旅

それにしても、本書が掘り起こす疑問点は、一つ一つが重い・・・。
普通は考えないよね、スルーするよね、というところまでしっかり考察されています。


本書:なぜ新大陸の病原菌は、ヨーロッパ人の侵略者を殲滅できなかったのか?
私 :運命のいたずらではないでしょうか・・・
本書:鉄剣や銃を発明したのは、なぜインカ人ではなかったのか?
私 :たまたまそうだったとしか・・・幸運の女神が微笑まなかったのでしょう・・・
本書:世界の富や権力は、なぜ現在ある形で分配されてしまったのか?
私 :自然や文化など、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果なので、一概には言えないと思います。


・・・と、私などはすぐに思考停止に陥ってしまいますが、著者は全くブレーキを踏みません。
文化人類学や生物地理学、遺伝学、歴史学など、多方面にわたる科学分野から知見を総動員して、疑問に対する答えを丁寧に導いていきます。
予想もしていなかったこと、一見すると些細な違いが、人類史に大きな影響を与えていたことが指摘され、驚嘆することしきり。

文庫版は上巻416ページ、下巻432ページありますが、「気がついたら読み終わっていた」というくらい面白く、全く長く感じませんでした。
むしろ、こんな壮大なテーマをたったの800ページ強に濃縮してしまうところが著者の凄さだと思います。