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「機械との競争」を読んだ感想。機械は人間の仕事を奪うのか?

機械との競争

機械との競争


『機械は人間の仕事を奪うのか?』
ラッダイト運動の時代から200年以上も議論されているテーマですが、この本はMIT教授らによって書かれた「機械による侵食」最前線のレポート。
いまや、機械はこんなことまでできる!という恐るべき内容でした。


◆あまりに速すぎるテクノロジーの進歩

これまでの定説は、機械化によって一部の古い仕事が失われても、新しい仕事が生まれて雇用を吸収する、というものでした。実際、産業革命後には多くの職業が消えていきましたが、経済の成長とともに新しい仕事は生まれ続け、20世紀の終わりまでは、十年ベースで見てアメリカの就労者が減るということはなかったそうです。
しかし、近年、技術革新の速度が速すぎて、雇用の転換・調整が追いつかず失業を生んでいる、と著者は指摘します。
ネット小売店、ネット生命保険などの躍進を考えると、大いにうなずけるものがあります。
しかも、こういった技術革新はどんどん加速している。
2004年、詳しい調査に基づいて書かれた本では、車の運転は高度なパターン認識に基づいており自動化はできない、と主張されていました。しかしわずか6年後の2010年、グーグルは自動運転車による1600キロの自動走行に成功します。
そのほか、機械による自動翻訳や、高度なコミュニケーション能力を有するコンピューターなどが紹介されていますが、ひとむかし前には人間にしかできないと考えられていた分野においてさえ、コンピューターによる侵攻が進んでいることがわかり、愕然とさせられます。

アメリカではディスカバリーと呼ばれる証拠開示手続きにより公判前に双方が証拠を開示し、そのレビューを人手で行なっているが、これをデジタル技術に移行すれば、弁護士一人で従来の500人分の仕事をこなせるようになる。

フォックスコンの創業者会長であるテリー・ゴウは2011年に、今後三年間でロボット100万台を導入し、順次人間と置き換えると発表した。

機械が・・・機械がおらたちの仕事を奪う・・・。


◆ではどうすればいいのか(ネタバレ無し)

著者は、機械が苦手な分野として、創造的な仕事と、ウェイトレスや配管工といった肉体労働の2種類を挙げています。これはつまり、人間に残される仕事は創造的で高所得な仕事と、低賃金の肉体労働に分かれていくということであり、これによって所得の二極分化がいっそう進む、という憂鬱な問題も指摘されています。
いったい、どうすればいいのか。
対応策として、本書では「組織革新の強化」「人的資本への投資」の2つが重点的に論じられています。労働者が機械と競争するのではなく、機械を味方につけて疾走するためにはどうしたらいいのか。
提案の中身はこの本のクライマックスですので、ここでは詳述しないことにします。
説得力があり、読み応えのある内容ですので、興味のある方はぜひご一読を。


テクノロジーの恐るべき進化をレポートしている本書ですが、悲観論一色ではありません。著者は将来を楽観しているとのことで、最終章では明るい展望も語られます。
コンピューターにできないことをしましょうね~、というありきたりの結論で終わるのではなく、具体的な19の政策提言まで持ってくるところも、さすがMIT。
これから社会がどこに向かうのかを考える上で、多くの示唆を与えてくれる一冊だと思います。


◆もう一つの「社会貢献」

個人的に印象に残っているのは、「聡明な起業家なら、スキルの低い労働者を活用して価値を生み出す方法も、きっと見つけることだろう」、という下り。
これからの時代、新しく生まれた仕事が、必ずしも一般労働者の雇用の受け皿になるとは限りません。
テクノロジーの進化によって、少数精鋭で起業し、少数精鋭のままビジネスを運営できるようになったため、一般人を雇う必要性が薄まってしまいました。
企業というものは利潤の追求を第一とすべきであり、そのためにはロボットでもスパコンでもガンガン導入し、情け容赦なく人件費をカットしていくべきなのかもしれません。
しかしその一方で、企業にはその活動を通じて社会に貢献する、という役割もあります。本書を読むと、人間を雇用し、そのスキルを価値に結びつけるという営みそれ自体が、すでにたいへんな社会貢献であるということに気付かされます。
天才ではない普通の労働者を雇用し、その能力を引き出しつつ、テクノロジーとの相乗効果で利益を生み出せるビジネスモデル。夢物語かもしれませんが、次代のスティーブ・ジョブズには、そんな甘っちょろい夢を現実のものにしてほしいと思います。
いまや素晴らしい新商品よりも、働きがいのある職場を求める声の方が、世界中で大きくなってきていると思うのです。


たったの170ページしかありませんが、すばらしい知見が凝縮されており、たいへん読み応えがある内容。
平易な文章で書かれていて非常に読みやすく、大学生や高校生にもぜひ読んでもらいたい一冊です。