「MAKERS(メイカーズ)」を読んだ

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

 

ロングテール」「フリー」の著者、クリス・アンダーソン氏の新作を読みました。

デジタルの世界で起こった情報革命がリアルワールドのモノ作りへと波及してくる様が、多くの事例を交えながら語られます。

3Dプリンタのインパクトとともに紹介されることが多い本書ですが、他にも製造業のあり方を根本から変えるかもしれない、恐るべきムーブメントが盛りだくさん。

自分にとっては、頭をガツンと殴られるような、今年読んだ本の中で最も衝撃的な一冊でした。

 

 

◆進む「ツールの民主化」

これまで、自分の中の「もの作りの常識」は下図のような状態でした。

 

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何かアイデアを思いついて、表現しようとする(①)。

そのアイデアが、イラストや文章で表現できるものなら、話は簡単です(②)。紙に書いてもいいし、お絵かきソフトや文章作成ソフトで作ってもいい。

そしてこういった「2次元の情報」は、家庭用のプリンタで簡単に印刷できる。

上記のツールは、安くていいものが普及しているので、ポスターや企画書なんかは個人でも十分な品質のものが製作できると思います。

 

アイデアが、動画やアプリケーションなどのデジタルコンテンツだった場合はどうでしょうか(③)。

ユーチューブやApp Storeの例を挙げるまでもなく、素人でも素晴らしい作品が生み出せる環境が十分に整っています。製作ツールが安価な点もまったく同じ。

 

ではそのアイデアを、リアルな3Dの物体で表現したい場合はどうか?(④)

斬新なデザインの道具。

オリジナルのおもちゃ。

生活を一変させるような発明品。

ディスプレイ上の図ではなく、実際に手にしてみたくなったら?

 

これまでの私の常識では、リアル世界(アトム世界)のモノ作りは、ネット上のモノ作りに比べて「非常にハードルの高い」行為でした。

まず材料や工具を揃えないといけない。作業スペースもいる(ワンルームマンションでレーザーカッターを使うのは難しい)。

木材買ってきて日曜大工するくらいならなんとかなるかもしれませんが、金属を加工したり、プラスチックを成形したりするのは、ちょっと大変そうです。

量産なんてもってのほか。

工場にいって、「ちょっとこの図面のとおり20個ほど作ってくれませんか」などと頼んでも、相手にしてもらえるわけがありません。

リアルワールドのモノ作りは、工場の大量生産か、職人による手作りが基本!

どちらも一般人には無理!

・・・そう思っていました。

この「MAKERS」を読むまでは。

 

本書が主張する「生産手段の個人への開放」というのが、まさにこの④の部分。

 

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モノ作りがデジタル化し、ファイルの標準化が進んだことで、誰もが簡単にリアルのものを作れるようになる。

その事例として、3Dプリンタやクラウド・ファクトリー等が紹介されています。

 

アイデアさえあれば、デジタルであれ物質であれ、それを「カタチ」にするためのハードルは、今後ますます下がってくる。

誰もがメイカー、デザイナーになれる世界。

本書の副題通り、確かにこれは「21世紀の産業革命」だと思います。

 

 

◆クラウド工場の衝撃

 3Dプリンタも素晴らしい技術だと思いましたが、本書を読んでもっとも衝撃を受けたのは「工場の設備がクラウドサービス化する」という下りでした。

 

 

製造業は、いまやウェブのブラウザからアクセスできる「クラウドサービス」のひとつとなり、だれでも必要なときに必要な分だけ、巨大な工業インフラのほんの一部を利用できるようになった。工場の運営は、だれかがやってくれている。僕たちはただ、必要なときだけそれを利用すればいい。グーグルやアップルの巨大サーバー施設にアクセスして、画像を保存したりメールを処理したりするのと同じことだ。(P86)

 

ここは巨大なCNC装置だ――プログラムを変えれば、どんなものでも作れる――と。工場全体がプログラミング可能であり、一台一台違う車を作ることもできる。(P178)

 

 

デジタル製造工場の例として、米テスラモーターズのロボット工場が紹介されていますが、その内容は圧巻の一言。

  • 軽量な多関節アームのついた多目的型六軸ロボット
  • プログラムを変えれば、数分とかからず異なる作業に移ることができる
  • さまざまな種類のアームヘッドの持ち替えも自動でおこなわれる
  • 汎用デジタル工作装置を使って、必要なパーツの大部分を内製する

 

機械を動かすのがコンピュータなら、ひとつひとつ違う商品を作っても、コストは変わらない。

そしてこの工場は、工場そのものがコンピュータであり、プログラムで作るものを変えられるため、一台一台違う車を作ることもできるそうです。

工場といえば、同じものを大量に製造しているイメージでしたが、ロボティクス&コンピュータ制御によって「何でも作れる」「一個ずつでも作れる」ようになるんですね・・・。

 

しかも、そんなロボット工場がクラウドサービスとして利用可能になる。

グーグルの巨大サーバー施設のように、ロボット工場も集積され、利用希望者が必要なときに必要な分だけ、その「もの作りパワー」を利用できるようになるのでしょうか。

 

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ううむ、すごい。

素晴らしいと思う一方で、空恐ろしいとも感じます・・・。

 

 

◆ロボットにはできない仕事をしろ、と人は言うけれど

 昔、ロボットが普及したら人間の仕事とられちゃうね~、なんて言ってましたが、実際にそんな世界がすぐそこまで来ているようです。

本書では

ロボット工場の台頭によって、これまで数世紀ものあいだ続いてきた、安い労働力へと向かうグローバルな貿易の流れは、終わりを迎える可能性がある。(P183)

・・・と、好意的な解釈(先進国にとって)がなされています。

たしかにロボットの管理には人が必要なわけで、工場が丸ごと途上国に移転するよりかは、先進国にとって良い状況が生まれるかもしれません。

しかし「工場の大量雇用」は、まとまった数の人々を中間層まで引き上げる、「貧困層救済の箱舟」でした。これがロボットに置き換わることは、人類全体の雇用にとって、とてつもないインパクトがありそうです。

途上国に工場建設 → その国の生活水準向上 → 中間層形成 → 旺盛な消費 → 世界の成長エンジンへ

というサイクルも、大きく変化するかもしれません。

 

 

デジタルを活用したもの作りのムーブメントは、製造業の常識を根本から揺るがし、世界中に変化をもたらす。

だからこそ、著者は「21世紀の産業革命」という言葉を用いたのでしょう。

多くの示唆に富む名著だと思います。