「日本のリアル」を読んだ

 

本のタイトルをみて、悲惨な日本の現実を嘆く本かと思いましたが、全然違いました。

本書は、日本の未来に一筋の光をあてる「希望の書」です。

 

 

養老孟司氏が「食卓・農業・漁業・林業」の4つのテーマについて、それぞれの分野のエキスパートと語り合い、対話形式にまとめた一冊。

どのテーマも非常に内容が濃く、日本の現状とこれからの展望について、熱い議論がかわされます。

個人的に感銘を受けたのが、農業・漁業・林業、いわゆる「一次産業」のリアル。

 

 

耕さず、肥料も農薬も使わずに強いコメを作る。

豊かな海に戻すため、森で植林活動に励む。

合理的な間伐で、林業を採算に乗せる。

 

 

どれも自分の常識(思い込み)を粉砕してくれる、素晴らしい話ばかりでした。

対談者の方々に共通しているのは、「どうすればうまくいくか?」「どうすれば産業として自立できるか?」を常に問い続け、試行錯誤を繰り返す、という姿勢です。

既存の組合や、国からの補助金をあてにせず、自分の目で現場を見て回り、自分の頭で考え、改善策を研究する。

そのあくなき探究心が、日本の農業・漁業・林業に新たな光をもたらしつつある。

読んでいてワクワクするような対談です。

 

 

◆恵まれた環境を活かす

もう一つ、本書を読んで改めて思うのが、日本という国はつくづく自然環境に恵まれている、ということです。

温暖な気候、豊富な雨量、豊かな自然、多様な生物。

現在の日本の1次産業は、この恵まれた自然環境を十分に活かしきれていない、と本書は説きます。

天然資源と言うと石油や天然ガスが真っ先に頭に浮かびますが、日本の自然環境も、よその国から見たらたいへんにうらやましい資源だと気付かされます。

世界的な水危機、食糧危機について警鐘を鳴らす学者もいますが、仮にそういった危機が訪れた場合、日本の温暖な気候は、大きなアドバンテージとなるかもしれません。

(本書でも、食糧危機に備えた取り組みに言及があります。)

 

また、観光産業という点から、自然環境を見直す動きも紹介されています。

海から山までを自然の状態で残してユートピアにするという「気仙沼ユートピア計画」。

環境省でも、被災地を国立公園のような形にして、自然を保全しようという構想があるとのこと。

 

武蔵野美術大学教授の原研哉氏は、その著書『日本のデザイン』の中で、工業から観光業へのシフトについて考察されていますが、我が国の観光産業の強みとして、「日本人の美意識」「もてなしの作法」などとともに「国立公園」を挙げています。

我が国の美しい自然を生かし、美意識を起点に国土を見直すテーマとして、国立公園に意識を向けてはどうか、と。

 

気仙沼ユートピア計画は、まさにそのテーマにピッタリの構想・・・。

世界に誇る日本の自然を国立公園として保護すれば、観光資源となるのはもちろんのこと、川が流れ込む海も豊かになり、漁業にもたいへんな恩恵をもたらすそうです。

ぜひ実現してほしいですね。

 

 

 

◆「農業はまだまだ手つかずの領域」

1955年の時点では、日本人の40%が第1次産業に従事していました。

2010年では、第1次産業従事者は4%にまで減少しています。

 

日本においては、第1次産業は「過去の産業」・・・

そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

 

しかし、それはとんでもない勘違い。

むしろ第1次産業は、これから始まる。

そう予感させてくれるほど、この本は力強さに満ちています。

 

 

 

最後に、「農業」の対談者・岩澤信夫氏の言葉から。

 

「農業には無限の可能性が秘められていると言いました。これは間違いのない事実です。だけど、それをみんな、追求し尽くしていないんですよ。われわれ人間の知識は、まだその世界の入り口にいるだけで、わかっていないことが多い。農業はまだまだ手つかずの領域と言ってもいいぐらいです。せめてそのことだけでも伝えていきたいと思っています。」